□■社会的な文章を書くために
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■主張に伴う責任から逃げない
■感情を表現しない
□自己顕示は控える
 ◆衒学趣味に走らない
 ◆文章表現で気取らない
■反社会的な表現、卑語俗語は避ける
□批判する際の注意点
 ◆批判には根拠を提示する
 ◆批判で感情的な表現を用いない
 ◆批判する部分と、そうでない部分を区別する。
■読者にへりくだらない



■主張に伴う責任から逃げない

 社会的な文章には
・要求に対する責任(主張が求められる文章では、何かしら主張をしなければならない)
・正当性についての責任(主張を行う際は、その正しさや効果について責任を持たなければならない)
という責任が伴います。

 例えば「開拓工事を続行すべきかどうか」についての調査書の場合、以下のような責任が生じます。

・執筆者は開拓工事を続けるべきか、止めるべきか判断し、文章上で結論づけなければならない(要求に対する責任)
・開拓工事は止めるべきと結論づけた場合、「開拓工事を中止したほうがメリットが大きい」が正しいことを執筆者は保障しなければならない(正当性についての責任)

 このような責任から、主張を曖昧にしたり分かりにくくしたりして逃れようとする行為は、文章や執筆者の信用度をおとしめるため、注意して避ける必要があります。

 具体的には、要求に対する責任、正当性についての責任が求められる主張においては、以下のような表現・用法を使わないようにしなければなりません。

(1)問題提起に終始
 「問題ではないだろうか」などと問題提起に終始し、実を述べない主張は避けるべきです。

元「その背反行為は、公平性を保つためにも処断すべきである」
×「その背反行為は問題ではないだろうか

元「冷却剤の混入は、注意して避けなければならない」
×「冷却材の混入には注意しなければならない」

(2)保険的表現
 保険的表現とは、言い訳や弱気表現を付け加えることで、主張が間違っていても自分に責任はないことを示そうとする表現です。
 例えば
×「一応〜だと思うが、正しいかどうか分からない
×「だと考えるが、これはあくまで素人の推論である
といったものが保険的表現にあたります。
 
 要求に対する責任、正当性についての責任が強く求めれる主張では、保険的表現を使わなくてもすむように、よく情報の整理・分析を行う必要があります。

×「以上ホール係数Rhは12式のようになったが、機器の操作に不慣れであったこともあり、間違っているかもしれない

(3)役所言葉
 役所言葉は、いわゆる官僚などが結論をうやむやにするために用いる言葉の総称です。
 以下のような文句が役所言葉にあたります。
×「更なる協議が必要である」
×「善処する」
×「十分に配慮する」

 役所言葉のような常套文句は、読者に陳腐な印象を与えるという点でも使用は控えるべきです。

(4)対象を曖昧にする
 曖昧な表現や、「など」といった言葉の多用により、主張の示す対象を曖昧にするのもまた、責任からの逃避と見られる場合が少なくありません。

×「いじめや引きこもりなどの問題に関しては、特別委員会の設置などの対策が必要である」

(5)反対意見との並列表記
 肯定・否定両方の意見を並べてどちらも正しいように表記するのは、一種の判断の先送りです。

 どちらが正しいのか判断するように要求されている文章では、反対意見は、反論をつけてあくまで主張を補強するための材料として用いなければなりません。

×「A海と呼ぶのは順当である。ただしB海と表記を改めるべきというX国にも一理ある」
○「A海と呼ぶのは順当である。X国はB海と表記を改めるべきと主張しているが、これはY法上、間違っている」

(6)主語のすり替え
 執筆者の主張を、他者の主張や一般的に言われている主張であるかのように記述するのは責任の転嫁であり、避けるべきです。

元「家畜の高い奇形率の原因は、上流の半導体工場にあると考えられる」
×「家畜の高い奇形率の原因は、上流の半導体工場にあると考えられている

元「今の教育制度に職業訓練の要素がほとんど含まれていないのは、ものづくり国家として問題だと思う」
×「今の教育制度に職業訓練の要素がほとんど含まれていないのは、ものづくり国家として問題だと、A教授は述べていた

(7)解釈を読者に任せる
 以下のような解釈を読者に任せるような表現は、主張で用いるべきではありません。

×「賛成派と反対派、どちらが正しいかは明らかであろう。」
×「賢明な読者なら自明のことであろう」

 主張においては、自分が肯定・否定、反対・賛成のどちらに組して述べているのか、明らかにする必要があります。



■感情を表現しない

 レポートといった正確な情報の記述が基本の文章は、冷静に、客観的に書くべきものであり、感情を表現するものでありません。
 たとえ感情的な要因が執筆の動機になっていても、文章上ではあくまで読者に執筆者の感情を感じさせないようにふるまうべきです。

 特に怒りや嫌悪、侮蔑といった負の感情を表現した文章は、読者に不快感を与えたり、執筆者の信用を落としてしまったりするため、注意して避ける必要があります。

×「怒りを通り越して、憐れに思う」
×「山田氏は誤解をしているか、理解力を持ち合わせていないかのどちらかだろう」
といった余計な一言は、何も益を生みません。
 あくまで文章は論理的に、客観的に展開しなければなりません。

×「その点、今回の大幅な削減は悲しむべきことだ」
○「その点、今回の大幅な削減は不適切なものだ」



□自己顕示は控える

 無用な自己顕示は読者の反感を買うばかりでなく、文章を分かりにくくする恐れがあります。
 そのため自己顕示は、あくまで読者に安心感や説得力を与えるための材料としてだけ使い、その他文章の目的とは関係ないものは控えた方が無難です。

 ◆知識の披露に走らない
 自分の知識を披露するために余談を加えたり、情報収集力を誇示するために無用なデータを提示したりするような行為は、冗長さを与える点で文章を分かりにくくします。
 また、露骨な知識自慢は読者に不快感を与えます。

 情報は、あくまで文章の目的にそったもののみ提示したほうが無難です。

 ◆文章表現で気取らない
 レポートといった内容で評価される文章では、文章表現はあくまで内容を分かりやすく読者に伝えるための道具です。
 そこでは、レトリックなど、文学的表現や凝った文章表現を使う必要はありません。

 また文学的表現や凝った文章表現は、以下のような欠点を持っています。
・主観的な形容を多用する。(レポートといった主観と客観を切り分ける必要のある文章では、主観的な形容はなるべく避ける必要がある)
・無駄な装飾が多い。(冗長な語句は文章を分かりにくくする)
・陳腐な印象を読者に与える恐れがある。特に懲り方が中途半端だと幼稚な印象を与える恐れがある。
・見慣れない言葉や、難解な言葉を多用する。

 そのため、不必要に文章表現に凝るのは避けたほうが良いでしょう。



■反社会的な表現、卑語俗語は避ける

 社会的な文章にふさわしくない表現を以下に示します。

(1)反社会的な表現
 反社会的な表現、具体的には
・差別的表現
・倫理に反する表現(「戦争による虐殺は食糧問題を解決させる」「異教徒は殺してかまわない」)
・猥褻表現
の3つは読者を不快させるだけでなく、執筆者の信用を貶めます。
 当然ですが使用は避けなければなりません。

 また、差別用語の研究など、テーマ上どうしてもこれらの表現を使わなければならない場合は、 
「著者の意図は差別を助長するものではありませんのでご了承ください」
と一度断りを入れた方が無難です。

(2)卑語俗語
 以下のような卑語俗語や流行語、口語体は、品性に欠ける、不誠実であるといった印象を与えるため、避けたほうが無難です。

「ばか」「ケータイ」「てんこもり」「デジカメ」「やばい」

(3)口語体
 ”ら抜き”言葉や、「問題だなぁと思った」といった、口語体表現は社会的な文章にそぐいません。
 使用は控えるべきです。



□批判する際の注意点

 批判は、特定の読者に我慢を強い、反感を生じさせるものであるため、批判を行う際は相応の配慮が必要になります。
 具体的に、以下の点に注意すべきです。

 ◆批判には根拠を提示する
 根拠のない批判は、批判の賛同者の同意しか得られません。
 批判には、必ず根拠を明記する必要があります。

 ◆批判で感情的な表現を用いない
 「ばかばかしい」「妄言である」といった感情的な批判は、論理的に根拠を述べられないものであり、客観的な文章にそぐいません。
 無用な拒絶や反感を生む恐れもあるため、感情的な批判は避けるべきです。

 特に誹謗中傷や人格攻撃といった、感情的な度合の激しい批判は注意して避ける必要があります。

 ◆批判する部分と、そうでない部分を区別する。
 部分的な間違いを拡張して、批判の対象でない部分もまとめて否定するような、批判対象の曖昧化は文章の正確さや信用性をおとしめます。
 批判する部分と、その他の部分は厳密に区別しなければなりません。

 特に、誤字の指摘といった揚げ足取りで対象の全てを批判したと思うような、非常識な考えは捨てるべきです。

×「Xが無害である言っている時点で、この論文は一考に値しない」

 一方、批判していない部分の価値を認めることは、批判によって生じる反感を和らげたり、批判を受け入れやすくしたりするのに有効です。

元「今回の提言は、資金面で現実的でない」
○「確かに今回の提言は新鋭的であり、特にデータの一元化の所は多くの示唆を含んでいると思う。しかし、資金面で現実的でない」



■読者にへりくだらない

 レポートといった社会的な文章では、読者の存在を意識したり、読者にへりくだったりする必要はありません。

 具体的には
×「賢明な読者なら既にご存知だと思うが」
×「2つの定数値が無関係であることを示そう
×「第2部については割愛させていただいた
といった表現は、社会的な文章では不要です。

×「2つの定数値が無関係であることを示そう
○「2つの定数値が無関係であることを示す

×「第2部については割愛させていただいた
○「第2部については割愛した」「第2部については省略した


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