□■読者に正確に情報を伝えるために
back
□解釈の曖昧さを取り除く
◆解釈が一定でない文は避ける
◆用語の定義の曖昧さを取り除く
■案内文をつける
■程度は具体的に書く
■間接的な主張は避ける
■価値観に依存する言葉は、客観的な言葉に置き換える
■用いる言葉を吟味する
■時間、場所は具体的に指定する
□解釈の曖昧さを取り除く
文章の意味が読み方によって何通りにも変化するのでは、正確に情報を読者に伝えられません。
文章が一意的になるように、無用な解釈の余地は可能な限り削っていく必要があります。
◆解釈が一定でない文は避ける
複数の解釈の仕方がある文は、誤った解釈を防止するためにも、注意して避ける必要があります。
例えば「記者と秘書の書類を調べる」という文は、自然に読み取っても、
「記者の書類と秘書の書類を調べる」
「記者と秘書が二人で書いた書類を調べる」
「記者と二人で、秘書の書類を調べる」
と、複数の解釈の仕方が残ります。
このような文では、読者が執筆者の意図のとおり文を解釈してくれると保障できません。
執筆者から読者へ正確に情報を伝達させるには、こうした無用な解釈の余地は削る必要があります。
文の解釈の仕方を一つに限定させる方法としては、以下の4つがあります。
1 句点を挿入する 「記者と、秘書の書類を調べる」
2 語句の順序を入れ替える 「秘書の書類を記者と調べる」
3 語句を修正・補足する 「記者と二人で秘書の書類を調べる」
4 文を分ける 「秘書の書類を調べた。調査は記者と二人で行った」
×「黒い触覚を持つ新種」
○「触覚を持つ黒い新種」
※語句を入れ替える
×「急速な化学反応による材質の変化が起こる」
○「急速な化学反応によって材質に変化が起こる」
※語句を修正する
◆用語の定義の曖昧さを取り除く
複数の意味を持つ用語は少なくありません。
中には「クラス」「ストレス」のように、専門分野が異なると、全く意味が変わってくる用語も存在します。
こうした意味が一定でない用語は、用語に対する執筆者の認識と、読者に認識の間にずれを生じさせる恐れがあります。
そのため、定義の曖昧さによって誤解を生む恐れのある用語は、あらかじめ定義づけを行って意味を限定しておくべきです。
また、文章全体の解釈に影響を与える重要な用語やキーワードは、明らかに意味が分かるものでない限り、定義づけを文章の先頭で行ったほうが安全です。
例「ここでの情緒障害とは、主に心因性の問題行動や環境の影響を強く受けた問題行動のことを指す」
■案内文をつける
文章の先頭に案内文(概要や論点、結論など)をつけると、文章の解釈の仕方を誘導できます。
そのため案内文は、解釈の曖昧さを取り除くのに有効に働きます。
例えば
「X国は、1990年代に借款の債権放棄により2千万ドルの財源を確保したことがあるが、その多くは欧米からの武器輸入に使われた。逆にその財源は貧困にあえぐ国民にはほとんど回らず、結果的に債権放棄の目的であった、X国の貧困問題の改善にほとんど寄与できなかった」
という文章は、
「借款の債権放棄で得た利益は武器輸入に使われた」
「借款の債権放棄はX国の貧困問題を改善させる力にはならなかった」
「X国は、借款の債権放棄を活かせなかった」
と様々な解釈の仕方ができます。
このような解釈の曖昧さは、文章の印象を弱める恐れがあります。
そこで
「今回の円借款の債権放棄は、欧米の軍事産業を潤すだけかもしれない。
例えばX国は、1990年代に借款の債権放棄により2千万ドルの財源を確保したことがあるが、その多くは欧米からの武器輸入に使われた。逆にその財源は貧困にあえぐ国民にはほとんど回らず、結果的に債権放棄の目的であった、X国の貧困問題の改善にほとんど寄与できなかった」
というように、先頭に案内文をつければ、読者は、執筆者がいいたいことをあらかじめ把握して文章を読み進めることができます。
また、案内文は解釈を誘導できるだけでなく、文章の分かりやすさも向上させます。
積極的に使った方が良いでしょう。
■程度は具体的に書く
例えば「多少の」「大きな」といった形容は、その程度のとらえ方が一定ではありません。
そういった曖昧な形容を用いる場合は、具体的な形容に置き換えたり、目安を併記したりして、形容の程度が分かるようにした方が無難です。
×「非常に大きな成長」
○「5割増の非常に大きな成長」
※目安を併記する
×「多少の損害」
○「300万円ほどの損害」
※具体的な数字に置き換える
■間接的な主張は避ける
日本では謙遜の姿勢を示すために、読み手が推論しないと本当の意味をつかめない、間接的な主張を行うことが少なくありません。
例えば「うるさいよ」という言葉は、普通「私はうるさく感じている」ではなく「静かにしなさい」ということを主張してます。
「うるさい」→「迷惑だ」→(他人に迷惑をかけてはならないという暗黙のマナー)→「うるさくしてはならない」という推論を、聞き手に期待しているわけです。
こうした間接的な主張は、執筆者の望んだ推論を読者が確実にやってくれると保障できない以上、文章上では避けるべきです。
主張は直接提示する必要があります。
例えば上の例は、文章上では「うるさいよ。静かにしてくれ」「静かにしてくれ。うるさくて集中できないから」などとします。
元「残業手当に関して告発が出ている。早急に対策を打つ必要がある」
×「残業手当に関して告発が出ている」
■価値観に依存する言葉は、客観的な言葉に置き換える
価値観が人によって違うため、「豪華な」「すばらしい」「悪い」といった、価値を表現する言葉のとらえ方は一定ではありません。
そうした解釈の曖昧さは、執筆者のとらえ方と読者のとらえ方に差を生じさせる恐れがあります。
そのため価値を表現する言葉は、具体的な根拠を併記する、具体的に程度を把握できる言葉に置き換えるといった工夫をするか、使用を避けるべきです。
×「豪華な装飾」
○「バロック様式の豪華さを受け継いだ装飾」
※既存のものと比較する文に置き換える。上の場合は他のバロック様式の建築物の豪華さから程度が分かる
×「すばらしい成績」
○「年間安打数の記録を塗りかえるという、すばらしい成績」
※目安を明記する
×「米国は悪である」
○「米国は4つの大きな間違いを犯している」
※事実の記述文に置き換える
■用いる言葉を吟味する
意味は一見同じように見えても、ニュアンスが微妙に違うという言葉があります。
例えば「侵略」「侵攻」「進軍」「軍事介入」や「対する」「関する」「において」などがそうです。
あるいは「推考」「推測」「推定」「推計」「推察」「推量」といった言葉も、それぞれニュアンスが違います。
こうした言葉の選択は、文章の印象だけでなく、解釈の仕方にも影響を与える場合があります。
そのため重要な単語や表現に複数の選択肢がある場合は、先に辞書を調べるなどして、それぞれの意味をよく吟味しておいたほうが無難です。
なお、台風の風の強さの表現「強い」(風速33m/s以上44m/s未満)、「非常に強い」(44m/s以上54m/s未満)、「猛烈な」(54m/s以上
)のように、表現を法令や規格で定義しているものもあります。
ですからレポートを書く際は、関連する資料や文献をよく確認して、言葉の使い方を把握しておくと安全です。
■時間、場所は具体的に指定する
「現在」「先月」「新しい」といった言葉の示す具体的な時期は、文章を書いた時期に依存します。
そういった言葉で時期を表現すると、読者が時期を正しく読み取れなくなる恐れが出てきます。
そのため「現在」 のような言葉を用いる場合は、以下の2つうち、少なくともどちらかを遵守する必要があります。
・新聞やニュースのように、日時をあらかじめ明らかにする(冒頭で日時を強調)
・「2005年7月現在」「2003年4月半ば頃に」などと、具体的な時期を明記する
また場所に関しても、「ここ近辺は」「田舎では」といった曖昧な表現は「八王子市近辺は」「新潟県山古志村では」などと具体的に場所を示した方が良いでしょう。
×「昔は、一部を除き、肉を食べる習慣がなかった」
○「明治時代に入るまで、一部を除き、肉を食べる習慣がなかった」
※具体的な時期を明記する
×「東の方で火災があった」
○「歌舞伎町の方で火災があった」
※具体的な場所を明記する
back
|