「学習指導の4原則」

 学習指導には、守るべき4つの原則があります。
 それらは指導案を組む際の目安となるだけでなく、他の指導を分析するためのものさしにもなります。
 今回はその4つの原則について学び、それをものさしとして指導案の分析を行ってみます。

1)学習指導の4原則

 学習指導では、以下の4つの原則が実践されているのが望ましいとされています。

・学習者中心
・ステップバイステップ
・問題解決との結びつけ
・全体→部分→全体 

 いずれも学習効果を向上させるための原則です。
 順を追って説明していきましょう。

1. 学習者中心
 学習者に答えさせる、考えさせるなど、学習者を授業に参加させるように指導を展開するのが「学習者中心」です。
 「学習者中心」には、課題を使って学習者の手を動かさせる、質問に答えさせるといった場面を授業に盛り込むだけでなく、学習者が自発的に授業に参加するよう、動機付けや興味関心の喚起をしっかり行うことも含まれます。

2. ステップバイステップ
 学習する内容を細かいステップに分け、それらステップを一歩一歩段階的に学んでいくのが「ステップバイステップ」です。
 ステップバイステップの利点としては次の2つがあります。

 まず難解なものでも、ステップに分解することで学習者が無理なく学べるようになります。

 次に各ステップごとに確認をとることで、学習者の理解度を細かく段階的に把握できるようになります。
 学習は、基本的に知っているもの・経験しているものを基礎にして知らないもの、未経験なものへ発展させる作業です。ステップバイステップを実践すると、その流れの中で学習者はどこまで知っているのか、分からない原因はどこのステップなのかといったことを教員・学習者双方が突き止めやすくなります。

3. 問題解決との結びつけ
 学んだ内容を、現場でも適用できるように指導を展開するのが「問題解決との結びつけ」です。
 現場を定義しにくい分野では、査定課題や指導目標を発展させた応用問題に適用させます。

 具体例を出すと、エクセルの実習ならば、明日から使える家計簿を作らせてみる、高校力学についての講義ならば、センター入試の問題を解かしてみる、経済学の講義ならば、実際の政治化の発言を分析させてみる、などが挙げられます。
 こうした課題は、動機付けになるだけでなく、学習者に課題を成功させたという達成感や、自分はここまで進歩したという具体的な充実感を与える点で有効に働きます。

 なお問題解決との結びつけには適切な指導目標の設定が欠かせませんが、それについては「目標設定」の項を参照してください。

4. 全体→部分→全体
 これは授業の大まかな流れを表しています。
 最初の「全体」で、授業で学ぶ内容の全体像を学習者に把握させます。
 これは動機付けや興味関心の喚起、即ち「学習者中心」の授業を展開するに当たって必要な段階です。
 次の「部分」では、内容をステップに分けて段階的に説明していきます。
 即ち「ステップバイステップ」を適用するという事です。
 最後の「全体」では、「ステップバイステップ」で学んだ各部分をまとめて、学習者に一通りの作業をやらせます(=査定課題)。さらに今回何を学んだのか、具体的にまとめます。
 まとめ問題や現場への適用といった、「問題解決との結びつけ」が行われるもの主にこの段階です。


2)指導の4原則に基づいた指導案の分析

 ひとまず実際の指導案を4原則をものさしにして分析してみましょう。
 以下に今回用いる指導案を示します。 

訓練目標:安全に釘打による板の接合ができる
時間:15分
訓練対象:中卒者
機材、教材等:げんのう、釘、木板、配布教材
区分 時間 指導の要点 学習者の活動 教材等
●導入
・動機付け
釘打の必要性
30秒 あいさつ
・釘打の必要性説明
■釘打はさまざまな場面で必要となる技能であるため、釘打の習得は広い分野で有効である
例)束線作業、本棚
・授業目標の提示
板書「安全に釘打による板の接合ができるようになる」
配布資料を見る  
●提示
・一通りの手順を示す
30秒 教員が一通りの作業を学習者の前で行う       
●提示
・大まかな要点の提示
安全に釘打を行うためには、
■木や釘をしっかり固定する
■正しい姿勢をとる
事が重要
配布資料を見る   
○提示
・ステップ作業
1.構える
3分 以下作業を分解し、要点を交えながら教員が実演する

□木は右腕の正面に据える
→げんのうをふりやすいよう
□上半身を前に傾ける
→体が目標から離れていると釘を当てにくく危険
※振り上げた時げんのうを頭に当てないよう注意
□左手で木をきちんと配置する
→ずれる、あるいは怪我をする危険があるため
□釘は3本の指で垂直に構える
→4本以上は打ちこみにくい。2本以下は安定しない。
→垂直に安定していないと失敗、怪我等の危険がある
     
○適用 訓練生に「1.構える」をやらせる 実習作業   
○提示
・ステップ作業
2.釘を打つ
3分 ※釘を打ち込むときはげんのうの、平面になっている部分で打つ
□釘は三分の一くらいまでは軽く打ち付ける
→釘を手の補助なしで安定させるため。釘が安定していないと失敗、指を打つ、はさむといった危険性がある
※釘が傾いた場合はげんのうの側面で軽く力を加えて向きを整える
□釘が三分の一くらいまで入って以後は左手を木の支えにまわす
→正確な位置で木を接合させるため
□直前まで強く釘を叩き込む
     
○適用 訓練生に「2.釘を打つ」をやらせる 実習作業   
○提示
・ステップ作業
3.仕上げ
2分 □少し出ている釘をげんのうの木殺しで軽く打ち込む。釘が軽く食い込む程度
→見栄えを良くするため
     
○適用 訓練生に「3.仕上げ」をやらせる 実習作業  
●適用
一連作業
5分 一通り復習した後、訓練生に一連の作業を繰り返しやらせる
手こずる訓練生には個人指導
実習作業   
●まとめ 1分 安全に釘打を行うための二つのポイントを聞く
二つのポイントの具体例・応用例を聞く

質疑応答
      

 では分析に入りましょう。

1. 4原則がどのように実践されているか

「学習者中心」
・釘打の必要性が説明されている。「例)束線、本棚」と、釘打が要求される具体例が示されている。→動機付け
・学習者が一人一人作業する実習形式を採っている。
・「手こずる訓練生には個人指導」と、学習者の修得度の差に対応している。

「ステップバイステップ」
・作業をステップ作業に分解し、段階的に教えている。

「問題解決との結びつけ」
・釘打による板の接合を、実際に通しで学習者にやらせている。

「全体→部分→全体」
 I 全体1=授業目標の提示。教員が一通りの作業を学習者の前で行う。大まかな要点の提示。
 II 部分=作業をステップに分解し、段階的に作業を行わせている。
 III 全体2=一通り復習した後、訓練生に一連の作業を繰り返しやらせる。大まかな要点の確認。


2. 4原則に基づいた改善点

「学習者中心」
・構えやげんのうの持ち方が右利きの人用。左利きではどうするのか?
・各ステップ毎に細かく質問・確認をとるべきでは?

「ステップバイステップ」
・各ステップ毎に細かく質問・確認をとるべきでは?
・どのように作業がステップに分けられているか提示すべきでは?

「問題解決との結びつけ」
・安全に釘打を行うための二つのポイントだけでなく、各ステップごとの注意点も質問・確認しておくべきでは?

「全体→部分→全体」
・構える、釘を打つ、仕上げると、ステップの全体的な手順を先に提示してはどうか?


3)まとめ

1. 学習指導の4原則
・学習者中心
・ステップバイステップ
・問題解決との結びつけ
・全体→部分→全体

2. 4原則は指導計画を作るための目安となるだけでなく、指導計画の評価を行うためのものさしにもなる。


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