「提示教材」
提示教材は指導に多彩さを与え、指導の効率や学習者の理解度を向上させます。
今回はその提示教材の利点を学ぶとともに、各教材の特徴を理解していきます。
1)提示教材とは
提示教材とは、配布資料やビデオ、板書といった、指導を補助する道具のことを指します。
提示教材は、大きく次の3つに区別する事ができます。
1.板書
板書、黒板に掲げる絵や写真など
2.視聴覚教材
OHP、プロジェクター、ビデオ、カセットテープなど
3.配布教材
教科書、プリントなど
2)提示教材の効果
提示教材の効果としては「理解を援助する効果」「記憶を高める効果」「刺激を与える効果」の3つがあります。
1.理解を援助する効果
例えば動物等の容姿の説明は、言葉のみで説明しようとすると非常に煩雑で分かりにくくなってしまいますが、絵や写真を用いれば簡単にできてしまいます。
また言葉で伝えられる情報でも、教材にまとめると表にする・箇条書きにする・強調表示するなどの工夫が加えられるため、分かりやすく説明できることがあります。
このように提示教材は、言葉で伝えにくい事柄を表現できる、明確なイメージを持たせやすい、要点を強調・整理できるといった、理解を援助する効果をもっています。
2.記憶を高める効果
記憶と学習方法に関連する実験で、以下のような結果が示されています。
表1 記憶保持率の変化 | ||
記憶保持率 | ||
経過時間 | 3時間後 | 3週間後 |
聞かせる | 50% | 15% |
見せる | 70% | 30% |
聞かせて見せる | 90% | 70% |
授業の形式別に、授業から一定時間経過したあと、教えた内容を学習者がどの程度記憶していたか調査したものです。
この数値を見れば分かると思いますが、「見せる」行為は学習効果を大きく向上させています。
これは図表や映像を「見せる」ことによって、前述した理解を援助する効果が得られるほか、イメージの具体化がなされているため、と考えられています。
「見せる」授業は提示教材で実現するものです。
その点、提示教材は記憶を高める効果を持っているといえるでしょう。
3.刺激を与える効果
授業の経過時間と、内容の記憶保持率には以下のような関係がある事が知られています。
図中の1までは学習者を授業に引き込ませて集中させるまでの変化、2以降は集中力が途切れることで現れる変化です。
大体図の2地点は授業開始から40分経過した辺りと言われていますが、これは授業内容によって変動します。
例えば冒頭からテキストを読み上げるだけのような授業だと、20分程で図中の2以降の変化が現れると言われています。
1−2間を延ばすためには学習者に複数の刺激を与え、授業の単調さを破っていく必要があります。
提示教材は、多彩な情報の提示の仕方を実現できるため、刺激を与え、授業の単調さを破るのに有効に働きます。
3)各提示教材の特徴
各提示教材の特徴を以下に示します
視聴覚教材 OHP、ビデオ等 |
板書 | 配布教材 本、プリント等 |
|
長所 | ・図解により説明を分かりやすくする ・動画、音声により説明を分かりやすくする ・授業に多彩さを与える ・流用できる |
・図解により説明を分かりやすくする ・動的に内容を展開できる ・発言や回答を記録できる ・ノートと同期が取れる |
・図解により説明を分かりやすくする ・大量の情報、資料を示せる ・復習や課題の対象として有効 ・現場に持ち運ぶ事ができる ・全員が確実に見れる ・流用できる |
短所 | ・要設備 ・画面や字が小さく、見えにくい事が多い |
・要設備 ・書く時間が長い ・誤字、誤りをチェックしにくい |
・要準備 ・かさばる |
1.視聴覚教材
板書のように書く時間を必要とせず、配布教材と違って教員ペースで授業を進めることができます。
またPowerPoint、ビデオなどは刺激として新鮮です。
ただOHP等は字が小さすぎて見えにくくなっていることが多いので、事前に最適な大きさを確認しておいた方が無難です。
あと視聴覚教材はノートとの同期が取りにくいという欠点があります。
例えばPowerPoint等のプレゼンテーション形式では、ノートを取る時間が確保されていない場合が少なくありません。
またOHPやプロジェクターの写りをよくするために照明を落とすとノートが取れなくなります。
そうした欠点は、配布教材を利用して緩和していくと良いと思います。
2.板書
自由に内容を展開できるのが板書の長所です。
授業中に学習者から出た良い発言を書き留めたり、黒板上で解答させてそれを皆の前で添削したりすることができます。
しかし板書は意外と時間がかかる上、ノートを取らせている場合は学習者が書き写す間も確保しなければなりません。
更に学習者がノートを書く事に気をとられて、教員の言葉に注目できなくなる恐れもあります。
板書は授業で一般的に用いられている提示教材ですが、そうした欠点を持っている点、留意しておく必要があります。
3.配布教材
前述したとおり、板書の内容をそのままノートに写していく形式は黒板等に書く時間とノートに写し取る時間を必要とします。
またノートを一つの参考書として完成させなければならないため、教えるべき要点の他に、その要点を文章として完成させるための文や単語、要点を補足・説明するための文章、文章を整理していくための見出しや番号等も書き写させなければなりません。
即ち、板書は冗長な部分を含んでいるということです。
こうした問題を解決するのが配布教材です。
例えば、ノートに書くべき内容を、要点部分を空欄にしてプリントや冊子にまとめ、授業ではノートを取らせる代わりにその空欄を埋めさせていけば、書き取りに費やす労力を必要最小限に抑える事ができ、時間を有効活用できます。
さらに板書では難しい絵図の提示や太字等の強調表現も可能、問題の添付も可能、流用も可能です。
しかしこうした利点を持つ配布教材は、教材製作の手間やこれまでの慣例といった理由によりあまり用いられていません。
配布教材は、3つの教材のうち最も活用の余地が残っている教材だと思います。
4)まとめ
□提示教材の種類
・板書
・視聴覚教材
・配布教材
□提示教材の効果
・理解を援助する効果
・記憶を高める効果
・刺激を高める効果
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