「指導目標と査定課題」

 指導目標をきちんと設定した学習指導では、質問や問題プリントといった、学習者が指導目標を達成できているか最終的に評価するための課題を用意することが少なくありません。
 こうした指導目標の達成基準となる課題は「査定課題」と呼ばれ、これから学習指導計画を設計していく際の目安となります。
 今回は、指導目標からその査定課題導き出す手法、および査定課題から指導目標を導き出す手法を学んできます。


1)査定課題と練習課題とは

 「査定課題」とは、学習指導で実施する課題のうち、学習者が指導目標を達成できたか評価するための最終的な課題のことをいいます。
 一方、査定課題を解かせるための知識・技能を身につけさせる中間的課題を「練習課題」と呼びます。

 例えば 「学習者は、鉛筆をカッターで削ることができる」という課題目標においては
 「鉛筆をカッターで削らせる課題」=査定課題
 「カッターを扱う際の4つの注意点を説明させる課題」=練習課題
 「カッターを正しい持ち方で構えさせる課題」=練習課題
となります。


2)段階としての「査定課題の設定」

 査定課題の設定は、指導目標をより具体的なものにするために行います。

 というもの、指導目標には、その目標を達成するための手段や、手段に伴う動作が含まれていない場合が多々あるのです。
 例えば「肺呼吸とエラ呼吸をそれぞれ説明できる」という目標において、「説明する」を実現する行動は、口頭で答えさせる、課題プリントに文章で書かせる、与えれた項目に正誤を与える等、複数存在します。

 「プリントに文章で書かせる」といった細かい動作は、指導目標には本来関係がないことですが(字を書く練習をするわけではない)、教材の有無や時間の割り振りといった形で、指導案に確実に影響を与えます。
 また「口頭で答えさせる=人前で物事を説明する能力も要求される」というように、動作や手段によって、指導目標の難易度が変化することもあります。

 こうした指導案に影響を与える要素から、曖昧な解釈の余地をあらかじめ取り除いておけば、安全に指導目標を指導案に反映させることができます。


査定課題を設定しない場合:
■指導目標を達成するための手段や動作を明らかにする必要がある。


3)査定課題の分析

 学習指導で設けられる課題は
与えられた「条件」下で、学んだ「操作」を、指定された「動作」で実現する。
と表すことができます。
 即ち、査定課題は以下の3つの要素で形成されているということです。

・操作
・条件
・動作

※なお前回の「目標設計」で用いた3基準の「条件」と上記の要素は若干用い方が違う点、注意してください。

 ですから指導目標から上の3要素を抽出するのが査定課題の形式を導く作業になる、と言えます。


4)指導目標の要素への分解

 実際に指導目標から3要素を抽出してみましょう。

指導目標「平家物語の導入部を、教科書を見ずに暗唱できる」
(想定課題:平家物語の導入部を一人一人暗唱させる)

操作:平家物語の導入部を暗唱する。
条件:教科書を見てはならない。
動作:言う。


指導目標「学習者は、ビデオで示された飛び方で、1.2メートル以上のハードルを飛ぶことができる」
(想定課題:ビデオで示された飛び方で、1.2メートル以上のハードルを飛べるまで実際に繰り返させる)

操作:ハードルを飛ぶ。
条件:ビデオで示された飛び方で飛ぶ。1.2メートル以上飛ぶ。
動作:飛ぶ。


 上の例では査定課題の代わりに想定課題があらかじめ与えられていますが、次は分解した要素から査定課題を決定してみましょう。

指導目標「学習者は、動物の絵を見て、名前を挙げることができる」

操作:動物の名前を挙げる。
条件:OHPで参考書p14にある7種類の動物の絵を示す。
動作:(プリントに)書く。

(決定)
査定課題:
 OHPで動物の絵を提示し、学習者にその名前をプリントに書かせる。
条件:
 提示する動物は、参考書p14にある7種類。
 名前を挙げる際は資料を見てはならない。


指導目標「階乗を求めるフローチャートを作成することができる」

操作:階乗を求めるフローチャートを作成する。
条件:Wordのオートシェイプを用いる。「判断」「処理」「端子」「入力」「出力」部品でフローチャートを作成する。
動作:(パソコンに)入力する。

(決定)→
査定課題:
 Wordのオートシェイプを用いて、階乗を求めるフローチャートを作成させる。
条件:
 「判断」「処理」「端子」「入力」「出力」部品でフローチャートを作成する。


5)要素から指導目標へのフィードバック

 要素を決定する過程で新たに条件や操作が生まれる場合がありますが、そうしたものを指導目標に追加すると、指導目標をより具体的なものにすることができます。
 また、指導目標を定める前に査定課題の目安が立っている場合、それを要素を分解すれば指導目標が定めやすくなります。

 例を示します。

指導目標「階乗を求めるフローチャートを作成することができる」

操作:階乗を求めるフローチャートを作成する。
条件:Wordのオートシェイプを用いる。
動作:(パソコンに)入力する。

(決定)→ 査定課題:Wordのオートシェイプを用いて、階乗を求めるフローチャートを作成させる
条件:「判断」「処理」「端子」「入力」「出力」部品でフローチャートを作成する。

(修正)→指導目標「Wordで、階乗を求めるフローチャートを作成することができる」


査定課題:
 アルファベットをアルファベット順にプリントに書かせる。
条件:
 アルファベットの記号はプリントに与えられている。

操作:アルファベットをアルファベット順にプリントに並べさせる。
条件:アルファベットの記号はプリントに与えられている。
動作:(プリントに)書く。

(決定)→指導目標「アルファベットをアルファベット順に並べることができる」


6)査定課題と練習課題の区別

 指導目標によっては1つの指導目標に対して複数の査定課題が必要となる場合があります。

 例えば
 「学習者は、売店の売り上げをパレート図にまとめ、ABC分析でAグループの商品区分を求める事ができる」
 の場合、査定課題は
 「売店の売り上げをパレート図にまとめさせる」
 「パレート図からAグループの商品区分を求めさせる」
の二つとなります。

 明快であるべき指導目標に、達成基準が複数あると評価が分かりにくくなります。
 ですからこうした例には
・「売店の売り上げをパレート図にまとめさせる」を練習課題にして、指導目標を「学習者は、売店の売り上げをまとめたパレート図から、ABC分析でAグループの商品区分を求めることができる」と修正する。
・指導目標を二つに分ける。
といった対策を施したほうが無難です。


7)まとめ

■査定課題の設定は、指導目標を具体化するために設定する。

□課題の三つの要素
・操作
・条件
・動作

■指導目標と査定課題には密接な関係がある。
 査定課題より、指導目標を求めたり、指導目標を具体的なものに修正したりすることができる。

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