「指導目標の設定」

 良い指導には適切な目標設定が欠かせません。
 さらに指導目標の良し悪しは指導内容だけでなく、指導計画を組み立てやすさにも影響してきます。
 今回は適切な指導目標とはどんなものか学んでいきます。


1)段階としての「指導目標の設定」

 「その学習指導を受ける事によって学習者は新しく〜ができるようになる」
 これが学習指導の目的です。
 ここで「〜ができるようになる」を示すものが指導目標で、この段階ではそれを文章で表記することで具体化していきます。

 なお「適切な目標設定」は、効果的な学習指導の設計に必要不可欠なものであるといわれています。 
 他の段階は環境や考え、経験に合わせて改変、省略を行ってもかまいませんが、この段階はきちんとこなした方が良いでしょう。

■指導目標の設定は省略すべきではない


2)目標設定の意義

 指導の目標を設定する意義として、次の二点が挙げられます。

1.学習効果の評価
 学習効果を評価するためには基準が必要だが、目標に対する学習者の達成度は、学習指導の有効な評価基準になる。
2.学習効果の向上
 具体的な目標を提示することで、学習者に精神的な準備を促せる。
 また、学習内容(=目標)が簡潔だと、学習者の印象に残りやすくなり、学習効果を向上させることができる。
3.指導計画の向上
 目標は、指導案を作成する際の基準となる。目標に具体的な基準や条件が含まれているほど、指導案が組みやすくなる。


3)指導目標の基準

 学習指導は「その指導を受けてどのような事が新しくできるようになるか」と具体的な成果を要求されるのが原則ですから、設定する目標は、「・・・できる」という形をとるのが基本です。

 さて指導目標の基準ですが、指導目標の決定、あるいは評価は、以下の3つの基準を目安にして行います。

・主体
・行動、行動の所産
・条件、基準

 順を追って説明していきましょう。

1. 主体

 学習指導の主体は学習者です。
 ですから指導目標は、学習する主体が学習者であることが明確に分かるものでなければなりません。
 例を以下に示します。

「学習者は、鉛筆をカッターで削ることができる」
「一年生は、配線の予備半田付けができる」
「エクセルでネスト状態の関数を、『関数の挿入』で作ることができる」
〇:「主体=学習者」となっており、良い例です。

「講師が、広葉樹と針葉樹の違いを説明する」
「指導員が、アーク溶接を実演する」
×:「講師」「指導員」と、主体は明確になっていますが、それが学習者でないため悪い例です。

「イラク戦争について考察する」
「言語論的展開について述べる」
×:主体が明確でありません。よって悪い例です。

 「学習者は、」などと、指導目標には主語を明記した方が良いという意見もありますが、主体が学習者を指しているのが明確であれば主語を省略してもかまいません。
 また、以下のような指導目標でも主語を省略できます。

「電子工学科3年生は以下の事ができるようになる。
1 排気装置の仮引きができる
2 排気装置の本引きができる
3 ピラニゲージを用いて、排気装置の真空度を測定できる
4 真空度の測定値から、排気装置の最大排気速度を導出できる」


2.行動、行動の所産

 指導目標は、前述したように学習結果を評価するための基準でもあります。
 ですから指導目標が示す「行動」や「行動の所産」は、教員が見てできたかできないか評価できるものでなければなりません。
※「行動」・・・機器を操作する、フリースローの決めるなど、動作そのものが学習対象であるもの
※「行動の所産」・・・プリントの問題を解く、質問に答えるなど、動作の結果が重要なもの。この場合は文字の書き方や発声法といった行動そのものはあまり重要で無い。

 例えば「足し算と引き算について理解する」は、「理解する」の表現が曖昧であることから、指導目標とは不適切です。
 というのも、教員は、プリントに書かせる、口頭で答えさせるといった行動を通してでしか学習者の達成度を知りえません。
 しかし「理解する」は学習者の頭の中で完結する動詞であり、行動を伴わないものです。
 すなわち、この「足し算と引き算について理解する」の達成度を、教員が具体的に把握できないということです。

 そのため指導目標では、「理解する」といった内面的な動詞ではなく、外部に働きかけ、教師が見て評価できる動詞を用いる必要があります。
 例えば「学習者は、指計算で足し算ができる」という指導目標ならば、実際に学習者にやらせる事で教員が成否を確認できます。
 また、「与えられた式を足し算か引き算か識別できる」「答えから、足し算の式を作ることができる」「指計算の三つの手順を、順を追って説明できる」といった指導目標も同様です。

 さてこのように良いとされる指導目標の「行動」は、以下の6つに集約されると言われています。

・識別する
・名前を挙げる
・順序づける
・説明する
・作成する
・やってみせる

 この6つ以外にも、例えば「操作できる」(=やってみせる)、「並べられる」(=順序付ける)とその類義語で代用したり、更に「識別できる」→「選んで口頭で答えることができる」と具体的な動詞を加えたりすることも可能です。
 なおこの6つのうち「説明する」は用い方によっては抽象的な表現になってしまう点、注意してください。「説明する」を用いる場合は、後述する「条件・基準」の要素を充実させておく必要があります。


 ではまとめとして例を以下に示します。

「文章の中から形容動詞を選び出すことができる」
〇:(=識別する)
「平行四辺形の面積の求め方を、三角形の面積の求め方から説明できる」
〇:(=説明する)
「ノギスを用いて、金属のサンプルの長さを測定できる」
〇:(=やってみせる)
「アルファベットをアルファベット順に並べて言うことができる」
〇:(順序付ける)
「動物の動物の絵を見て、名前を挙げることが出来る」
〇:(名前を挙げる)
「ベートーベンのクロイツェルを鑑賞する」
×:鑑賞する、の評価方法が明確でありません。指導目標として不適です。
「学習者は、マクスウェルの法則が分かる」
×:分かる、の評価基準が明確でありません。同じく不適です。
「学習者は滑車の法則を理解することができる」
×:理解する、の評価基準が明確でありません。同じく不適です。


3. 条件・基準

 指導目標は具体的でなければなりません。
 目標の範囲が広すぎたり、目標を満たすための手段が複数ある場合は、「条件」を与えて行動を限定したり、「基準」を与えて目標を具体化したりする必要があります。
 逆に指導の中で行動を限定するような「条件」や達成させるべき「基準」があるならば、進んで指導目標にそれらを明記しなければなりません。

 例えば「教科書14ページの英文を和訳することができる」という目標の授業で、和訳に辞書の使用を認めさせているならば、目標に条件を加えて「教科書14ページの英文を、辞書を用いて和訳することができる」とした方が授業の行動を明確にすることができます。

 また、「エネルギー保存則が分かる」も、授業で行う内容を条件として加えて、「エネルギー保存則を用いて、落下物の速度を、高さから求めることができる」とすれば適切な指導目標になります。

 他にも「C言語でプログラムを作ることができる」いった目標では、作る対象の範囲が広すぎます。
 「C言語で、課題仕様の数当てゲームを作ることができる」と達成基準を明確にしなければ、教員は何を作らせれば良いのか、あるいは第三者はその指導で何をするのか具体的にイメージできません。

 以下に他の例を示します。

「アンペールの法則を用いて、無限長直線の周囲の磁場を、直線を流れる電流から求める事ができる」
〇:達成基準が含まれていて学ぶ内容が具体的。
「電圧測定器の特性の違いを説明できる」
△:何の電圧測定器の違いが分からない。
「三種の電圧測定器(オシロスコープ、テスター、アナログ電圧計)から、最適な計測器を選定できる」
〇:条件が含まれていて行動が具体的。
「学習者は、他の指導例を、指導の四原則を基準にして評価できる」
〇:指導の四原則を基準にして、と条件が与えられていて行動が具体的。


 では指導目標の三つの基準「主体」「行動・行動の所産」「条件・基準」を用いて、指導目標を評価してみましょう。

「ビデオで示された飛び方で、1.2メートル以上のハードルを飛ぶことができる」
主体)〇:主体が学習者となっている
行動・行動の所産)〇:飛ぶことができる=やってみせる。教員が学習効果を評価しやすい
条件・基準)〇:ビデオで示された飛び方、1.2メートル以上と基準が与えられている

「ブラインドタッチで、英数字を一分間に100文字以上打てる」
主体)○:主体が学習者となっている
行動・行動の所産)〇:打てる=やってみせる。教員が学習効果を評価しやすい
条件・基準)〇:ブラインドタッチと条件が、英数字を一分間に100文字以上、と基準が与えられている


4)学習指導の設計と指導目標

 指導目標は学習指導の設計のしやすさを左右する場合があります。
 例えば前述の「釘打ちによる、木の板の接合ができる」に、あらたに条件を加えて「安全に、釘打による、木の板の接合ができる」とすると、設計する側は「安全に」というキーワードで膨大な選択肢を限定させていく事ができます。
 具体的にどのような影響が与えられていくかは、後述する指導案の作り方の項で説明していきたいと思います。


5)まとめ

□目標設定の意義
・結果の評価
・学習効果の向上
・指導計画の向上

□指導目標の基準
・主体
・行動、行動の所産
・条件、基準

■指導目標の主語は学習者でなければならない
■指導目標の行動や行動の所産は、教員が見て評価できるものでなければならない
■条件や基準は、指導目標を具体的なものにするために積極的に加えていくべき

■良い指導目標は、指導計画を設計しやすくする

back